数ある行事の中で最も華やかと言っても過言ではない婚礼の儀式には、
その儀式にふさわしく、色鮮やかな和菓子が多くあります。

紅白饅頭や紅白せんべい、鯛や鶴がモチーフの干菓子はもちろん、各地には古くから伝わる祝い菓子があります。
その代表ともいえるのが『蓬莱山』です。
蓬莱山とは
蓬莱山は、古来中国で不老不死の仙人が済んでいるとされた理想郷の名前です。
日本でも平安時代から、祝宴にこの蓬莱山を模ったものが並べられるなど、古くから吉祥の象徴とされていました。
和菓子の蓬莱山は、中に色とりどりの小さい饅頭を入れ、周りを大きな饅頭で包んだもので、切った断面が美しい蓬莱山をイメージさせることから、その名がついたともいわれています。
今は、紅・黄・紫・緑・白・黒の色が使われた5個の小さい饅頭が入っていることが一般的です。
この色は、それぞれ、無病・財力・徳・天命・長寿を表すというおめでたい色です。
また、この小さい饅頭は子供に見立てられることから、別名『子持饅頭』とも呼ばれます。
まさに慶事にふさわしい菓子と言えるでしょう。
京都の公家の婚礼の儀式に「箸取りの儀」というものがあります。
箸取りの儀とは、新郎新婦が島台に置かれた干菓子などの祝い菓子を、参列者にそれぞれの箸を使って振る舞うというものです。
現代でもこの儀式に倣って、結婚式で蓬莱山や干菓子を取り分けるという演出がされることもあります。

地方に伝わる慶事の和菓子
その他の慶事の和菓子を見ていきましょう。
西讃岐地方には、5色のあられ『おいり』が嫁入り道具として伝わります。
この「おいり」には、嫁ぎ先の一員として「心を丸く持って、まめまめしく働きます」という意味が込められています。
この風習はこの地域独特のもので、その歴史は大変古く、1587年ごろに遡ります。
当時の丸亀城主に嫁いだ姫君に、領下の農家の人が餅花で作った五色のあられを献上したところ、
大変喜ばれたといい、それ以来この地域では婚儀の際にはこの「おいり」を嫁入り道具の一つとしたそうです。

次に、金沢に伝わる婚礼菓子について解説します。
金沢には、親戚が祝い菓子を贈るという風習があります。
森羅万象をイメージした5色の生菓子「日月山海里(じつげつさんかいり)」を引菓子にしています。
白い丸餅の半分に赤い米粉をまぶしたものが太陽(日)、白い饅頭は「月」、
黄色の餅粉を付けた丸餅を「山」、こし餡を包んだ菱形の餅が「海」、蒸し羊羹は「里」を表しています。
これは、2代将軍 徳川秀忠の娘・珠姫が前田利常の元へ嫁いだ際、
加賀藩の御用菓子士が考案し献上したと伝えられています。
明治時代には、これが庶民にも定着していきました。
金沢には、披露宴の際に料理の前に出される「寿せんべい」というものもあります。
また名古屋では、花嫁が家を出る時に道を開けてもらうため、
二階や屋根から駄菓子をばら撒くという、面白い風習があります。
最後に、前の章でも少し解説しましたが、祝い菓子の定番・紅白饅頭についてです。
お嫁さんがお姑さんと一緒に、黒い塗り盆にのせた紅白饅頭をご近所に配りながら、
結婚の挨拶回りを行うところもあります。
この時、この紅白饅頭は「お嫁さん饅頭」と呼ばれます。
宮中では、白・赤・紫・茶色・緑の5色の饅頭が用意され、五色上用饅頭と呼ばれました。
このように、婚礼に関わる華やかな和菓子が地域の特色と共に各地に伝わっているのです。
