Lesson4‐1 お祝い事と和菓子

前回までのLesson3では、四季折々の和菓子について学んできました。
そのなかには行事と結びついているものも多く、四季の和菓子と行事は深くつながっているといえます。

ここからは、行事に焦点を当て、和菓子との関係を学んでいきます。

節句などのお祝い事から冠婚葬祭まで、和菓子が使われる機会はとても多くあります。
どのような行事と和菓子が結びついているかをしっかりと学んでいきましょう。

新年の始まり、お正月

1年の始まりである1月は、その年の幸せを願い様々な儀式が行われます。

幸福が訪れるようにと、縁起の良いモチーフが多く作られ、和菓子もとても華やかです。
新年の和菓子としては、鏡餅花びら餅や、笑顔饅頭餅花などが代表的です。

笑顔饅頭は、真っ白な薯蕷饅頭の皮に、中央に施されたくぼみと赤い点が特徴で、えくぼ饅頭と呼ばれることもあります。

そして今も行われている新年の行事に、皇族の方々が行う「歌会始の儀」があります。

この歌会始の儀は、鎌倉時代の亀山天皇の頃から行われていました。
江戸時代には、ほぼ毎年開催されており、明治時代以降も長く引き継がれています。
それまでは宮中行事として皇族とその側近で行われていた歌会始の儀は、明治7年、国民の参加も認められるようになり、現在のようなかたちになりました。

この歌会始の儀で出されるお題にちなんで作られる和菓子が、「お題菓子」です。

その年のお題から連想される意匠などを表現することが多く、和菓子職人の感性と知識や技術が感じ取られるでしょう。

また、お題菓子と共に年末から年明けに多く見かけるものが「干支菓子」です。

十二支を模った様々な菓子が並びます。

そのままの干支を表すものから、その干支からイメージされる様子を抽象的に表現したものなど、お題菓子同様、職人技を感じることでしょう。

ハレの日の和菓子

入学や卒業、受賞など、数々のお祝い事の際に用意されることが多いものに紅白饅頭が挙げられます。

紅白はおめでたい色の象徴的存在で、婚礼など様々な場面に登場しますが、他にも縁起が良いとされるモチーフがあります。

松竹梅

寒い冬でも枯れず、常に青々とした緑を保つ常緑樹であることから、不老長寿の象徴とされる

成長も早いうえに折れにくく、真っ直ぐに伸びる凛々しい姿から、清廉潔白・子孫繫栄の象徴である

樹齢を重ねても、早春にいち早く花を咲かせ、品のある香りを楽しませてくれることから、
梅は気高さや長寿の象徴とされました。

今は、序列のようなイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、もともとは中国の「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」という画題からきた言葉で、それぞれに優劣はありません
日本で吉祥の象徴として尊ばれていたことから、結びついたようです。

着物などに施され、親しまれるようになったのは江戸時代以降のことですが、
和菓子の世界でも伝統ある意匠としてお正月はもちろん、
結婚式の引き出物など、お祝い事で目にすることが多いモチーフです。

海老

他にも、お正月の縁起物として喜ばれる意匠に海老があります。

「腰が曲がるまで長生きする」という長寿の意味や、勢いよく跳ねる姿が出世の象徴とされ、おせち料理の定番になっています。
和菓子でもその意味から人気が高く、鏡餅の上に橙と共に飾られたり、木型で打ち出される菓子などに、その姿を見ることができます。
また、見た目だけではなく、その味わいも、煎餅やあられなどに活かされています。

貴族が持ち、煌びやかなイメージがあるは、実は日本人が発明したものだということをご存じですか。
涼を呼ぶものとして団扇もありますが、団扇は奈良時代に中国から伝来したものです。

扇は末広がりの形をしているため、発展・繁栄の象徴で、和菓子の木型にもよく用いられています。
やはり、年始や慶事などの席で好まれる意匠の一つです。


次は、お祝いなどおめでたい時の菓銘に使われる代表的な言葉をみていきましょう。

寿

寿の旧字体の「壽」は、中央部分が田の畝を表しており、本来は豊穣を祈る意味があります。

そのことから生命が長いこと、併せて長生きを祝う意味へとなっていきました。
この文字そのものを模った落雁や、饅頭の上に押される焼き印など、
和菓子の中でも最も多く使われる文字ではないかと思います。

この「寿」と並び、「」もおめでたい言葉としてよく使われています。

千代

千世とも書くこの言葉は、とても長い年月を表した言葉です。
末永い幸福を願ってつけられることが多いでしょう。

同じ意味として、「千歳(ちとせ)」「千尋(ちひろ)」「常磐・常盤(ときわ)」「万代(ばんだい)」などがあります。

お祝いの席でよく用いられる、基本的な言葉はこのようなものがあります。
これを踏まえたうえで、次のページからは具体的な行事と和菓子の関係を学習していきましょう。