だんだんと冬の足音が近づいてくる季節になりました。
風の冷たさに身を縮めたくなる11月は、七五三などの子供のお祝い事がある月でもあります。
そのような時期の和菓子には、どのようなものがあるのでしょうか。
11月の和菓子について学んでいきましょう。
11月 霜月
毎年11月朔日、京都にある護王神社で行われる「亥の子祭」という行事をしっていますか。
この神社は、狛犬ではなく、狛猪がいることで有名です。

なぜ狛猪なのかということは、こちらの祭神である和気清麻呂に関係しています。
和気清麻呂は、奈良から平安時代に活躍した朝廷の役人でした。
当時、権力を振るい天皇の座を奪おうとした僧侶の弓削道鏡から、天皇一族を守ったことで知られています。
その後、道鏡の怒りに触れ、清麻呂は流罪の罪で現在の鹿児島県に流されてしまいました。
鹿児島へ向かう道中、この清麻呂を守ったのが、300頭もの猪だったといわれています。
その為、この神社には狛猪が鎮座しているのです。
そこで行われる亥の子祭で用意される和菓子が「亥の子餅」です。
亥の子餅と猪の関係とは
旧暦10月の亥の日・亥の刻に餅を食べると病気にならないという言い伝えが中国から伝わり、
日本でも食べられるようになったといわれています。
この行事は、室町時代には武家に浸透し、江戸時代にはより盛んに行われるようになりました。
当時の亥の子餅は、将軍から大名や旗本へ、天皇から臣下へ下賜されたものでした。
猪は多産ということで子孫繫栄の願いも込められているといいます。
その後、収穫祭とも結びつき、庶民の間にも広まっていきました。
現在、この亥の子祭は収穫祭として、主に西日本で行われることが多い行事です。
一方、東日本では、十日夜(とうかんや)として、旧暦10月10日に3回目の月見と収穫祭が行われます。
この日は、収穫を終えて田の神様が山へ帰る日といわれており、その感謝を伝える日でもあるのです。
そしてこの日、茶家では炉開きも行われます。
火伏の神とされる愛宕神社のお使いが亥ということに由来し、茶菓子として亥の子餅が登場するのです。

炉開きとは、その字の通り、「炉」を「開」いて火を入れる日で、湯を沸かす釜を風呂から炉に替える日のことです。
また、炬燵などに火を入れる日でもありました。
猪がお使いになっているこの愛宕神社も、先に解説した和気清麻呂と関係が深い神社なのです。
781年(天応元年)、現在の愛宕神社がある地に清麻呂が白雲寺を建立しました。
その後、明治時代に神仏分離が行われ、白雲寺は廃寺となりましたが、愛宕神社となり現在に至ります。
『源氏物語』にも登場する亥の子餅の裏側には、こんな壮大な歴史物語があったのですね。
11月のモチーフ
その他の、11月の和菓子を見ていきましょう。
先ほど紹介した炉開きでは、『織部』の名の付くものを使うしきたりがあります。
織部とは、千利休に茶を学んだ武士の古田織部からきており、江戸時代には大名たちに茶の湯を伝えたといわれている人物です。
白い生地に、井桁や梅の紋様を施した『織部饅頭』が、亥の子餅と並び有名です。
また、赤やオレンジ色に染まった美しい木々は、この時期ならではの景色です。
モミジやイチョウは、11月に多く見られる意匠です。
練切や干菓子で、葉そのものの形を表したものや、そぼろなどを用いて、美しい紅葉の雰囲気を出したものなどがあります。

もう一つ、秋ならではの風情を感じるものをあげてみましょう。
風などで落ち葉や木の実などが集められる様を「吹き寄せ」といいますが、それと同じ菓銘の和菓子もあります。
その様子から吹き寄せは、様々な種類のものを集めたものをさし、
和菓子においては抹茶などで色づけされた菓子や小ぶりな煎餅など数種が合わせて入ったものが一般的です。
