入学式など新しい環境に胸を躍らせる頃、桜の花も満開となります。
一時辺りを彩るピンク色は、本格的な春の訪れを感じさせます。
4月 文月
日本人の心の風景にある花といえば、やはり桜でしょう。

しかし、奈良時代までは、花といえば梅をさしていました。
そんな歴史もある桜は、この季節、和菓子の意匠として様々な形で作られます。
お花見と和菓子
日本の春の風物詩といえば、代表ともいえる花見があります。
花見といって思い浮かぶ和菓子は、桜餅やピンク・白・緑の彩りがとても春らしい三色団子でしょうか。
三色団子は、豊臣秀吉が考案したともいわれていますが、はっきりとした記録は残っていません。
しかし、江戸時代の記録から、三色団子が茶会で振舞われていたことがわかります。
お抹茶と三色団子の組み合わせは、容易に想像できるほど、
日本人の心のどこかにある風景に思います。

花見はかつて、季節の変わり目のお祝い事で、貴族の優雅な遊びとして行われていました。
一方で、庶民の間では、ちょうど桜の開花時期が春の農作業の合図でもありました。
そのため、花見は田の神に豊穣を祈願する儀礼として行われていたようです。
庶民の間でも、花見が春の遊びとして楽しまれるようになったのは、実は江戸時代以降のことといわれています。
その理由については、Lesson6などで詳しく触れますが、その始まりには歴史的人物が関係しています。
今は桜の名所となった隅田川周辺など、庶民の憩いの場を作ったのが、8代将軍・徳川吉宗です。
満開の桜を思わせる、ピンク色の生地に餡を包み、桜の葉の塩漬けで包んだ桜餅は
この桜並木から誕生しました。
桜餅ですが、関東では小麦粉を使い、楕円形に焼いた生地に餡を挟み桜の葉で包む形状が多く見られます。

代わって関西では、主に道明寺粉を使った生地で餡を包んで桜の葉で巻くという形がとられます。
この2種類を食べ比べてみるのも面白いですね。

4月のモチーフ
桜の和菓子は、桜餅のように抽象的に表現されるものから、桜そのものの形を模ったもの、桜の花びらを添えたものなど、様々作られています。
中には、水面に浮かぶ花びらを描いた「花筏(はないかだ)」や、
遠くに見える桜並木を春の霞掛かった様子と共に表現した「春霞」という名前も使われます。
また、桜の名所として有名な「吉野山」など、地名が使われることもあります。

桜以外にも、晩春の花である「牡丹」や、「山吹」なども意匠とされます。
牡丹は、奈良時代に中国から伝来したといわれています。
大きな花びらで華やかなこの花は、当時の権力者からもとても好まれていました。
実際に、寺院や城の襖絵や、屏風、女性の衣に描かれていることが多いのです。
この牡丹を模った和菓子の菓銘は、「富貴草」や「名取草」、「二十日草」などの名称があります。

同じく、山吹も晩春から初夏にかけて私たちを楽しませてくれる花の一つです。
黄金色の花は、牡丹とはまた異なった華やかさを持ち合わせています。
水辺に咲く山吹をイメージさせる「水山吹」や「山吹もち」など、菓銘も様々です。
山吹を菓銘とする和菓子は、その花の色にちなんで、くちなしの実を用いて黄色く着色するのが定番です。