和菓子の特徴といえば、その季節ごとに表現される美しい造形が挙げられます。
このページから始まるLesson3では、四季の和菓子の数々をみていきましょう。
1月 睦月
1月は、新しい年を迎え、皆その年の幸せを願います。
和菓子の世界でも、縁起物のモチーフや、幸せを祈願するようなものが多く登場します。
代表的な形には、松・竹・梅、鶴や亀はもちろん、その時期の花の様子を表したものもあります。

1月のモチーフ
旧正月頃に咲く福寿草は、縁起が良い花とされ、練切などでよく表現されています。
別名「元日草」といわれ、お正月の飾りにもふさわしく、正月菓子の定番の意匠となっています。
特徴的なものは、「未開紅(みかいこう)」でしょうか。
こちらも上生菓子で作られる和菓子で、未開紅とは梅の品種のことです。
冬の最中、つぼみをつけて咲こうとしている花の様子を、生地の四隅を重ねることで表現しています。

松は、長寿の象徴として古くから好まれてきました。
和菓子の世界でも特に、新年に用いられることが多く、その種類は干菓子から羊羹、きんとんまでと、とても幅が広いです。
この濃い緑は、他の色との組み合わせでより映える為、新年にふさわしく、
日の出や雪などと組み合わせたモチーフも多く見られます。
鶴や亀もまた、松と並んで長寿を象徴する縁起物です。

特に鶴は、白い体に頭部の赤と、慶事に用いられる紅白を思わせることから、新年のモチーフとしても多く使われます。
その姿からも、凛とした美しさがあり、羽を広げて飛び立とうとする姿や、端正な立ち姿など、様々に表現されてきました。
饅頭のように丸い形であっても、羽を閉じてゆったりとする姿を思わせ、和菓子の表現力の素晴らしさを感じることができます。

儀式に由来する「花びら餅」
お正月といえば、鏡餅やお節料理など、特別な料理や飾りが用意されますが、和菓子の世界にも、お正月ならではのものがあります。
代表的なものが、『花びら餅』ではないでしょうか。
平安時代、長寿を願って固いものを食べる『歯固めの儀式』というものがあり、
元旦から3日間、鏡餅や大根、押鮎などを用いて行われました。
これが元になり、平たくのした円形の白餅(花びら)に、薄紅色の菱形の餅を重ね、
味噌餡と押鮎に見立てた牛蒡の甘煮を半円状に包んだ『菱花びら』ができ、
長く宮中の正月の行事食とされてきました。
別名『包み雑煮』とも言われる所以です。
後に、宮中から許しが出て、初釜の菓子としても登場するようになりました。
これが、現在まで伝わる『花びら餅』となったのです。

鏡餅と餅花
地域により多少日にちが異なりますが、多くの地域で1月11日に行われる鏡開きでは、
お供えしていた鏡餅を下げて、おかきにしたりお汁粉に入れて食べたりします。
この鏡開きは、もともとは武家に伝わる行事で、刃物で切ることは切腹を連想させることから禁物とされた為、木槌などで割って細かくします。
また、「割る」といわず、「開く」という言葉を使うのは、縁起が良い末広がりのイメージがあるからです。
1月15日の小正月あたりでよく目にするようになる『餅花』は、農作物の豊作などを願って作られたものです。
柳や桑などの枝に、小さな紅白餅や団子を付け、軒下につるして飾ります。
この飾ったお餅を、1月下旬やひな祭り、または6月に行われる氷室の節句に外して、
炒って食べる習慣がある地域もあります。
